宮島達男展 Art in You 08/04/27@水戸芸術館



宮島達男という現代美術作家のことを知っている人には、ちょっとたるい話になってしまうが、ここを省略してしまうとなんのことやらということになってしまうので簡単に説明しておきたい。
まず、藝大在学中はパフォーマンスや家電製品を使ったインスタレーションによる作品を発表していた。1987年に発表したLEDでデジタルカウンターを使用した作品を発表し、翌1988年のヴェネツィアビエンナーレの「アペルト88(若手作家部門)」に出品した作品 『Sea of Time』(時の海)によって一躍国際的に知られるようになった。『Sea of Time』は、暗い部屋の床一面に発光ダイオードの数字が1から9までカウントするものであった。1999年のヴェネツィアビエンナーレには日本代表として出品。日本の現代美術作家としての地位を確立した。まだ、現代美術作家が評価される手順としてはいわゆる「逆輸入=海外での評価」が一般的だった。宮島氏を有名にしたLEDの作品群の特徴は、デジタル時計のように数字を1から9まで表示するのだが、そのカウントする時間(タイミング)は個々のカウンターによって違うのである。もの凄い勢いでカウントするものもあれば、全く数字が変わらなくて動いているのか?と思わせるものもある。そして、1から9まで数字が変わると「0」は表示されず数字が消えるのである。0が表示されないということに深い意味がある。
0という概念はインドで発見されたのだが、それまでは0は無だった。では、この表示されない無の状態というのは何を表しているのだろうか?それは「死」である。
1から9まで、それぞれの速度でカウントされるLEDが人間の「生である。デジタルの数字というのは万国共通の表示であり、命もそれと同じということである。そして、LEDによる発光はそのまま「命の輝き」である。それぞれの速度で人は生きて死ぬ。1から9、そして闇。また1から始まる生命の「輪廻」(仏教用語でご本人がそう仰ってました。)を表現しているのです。
このことは、それを観ただけではわかりませんのでそういう深い意味があっての表現だというのがわかると、ヴェネツィアビエンナーレ出品作の『MEGA DEATH』(1999年)という作品が非常に迫ってくるものがあります。それは非常に大きな作品で、2400個ものブルーのLEDを幅34メートル、高さ6メートルの壁面に配置した最大級の作品です。2000年に東京オペラシティギャラリーで、ビエンナーレ凱旋個展で体験しました。
一展示室がそのまま作品になっており、それぞれのLEDがそれぞれの速度でカウントしているのですが突然その2400個の光が消えるのです。この突然の闇は「人為的な大量死」=『MEGA DEATH』であり、それまでの自然のサイクルで営まれていた生命が人為的に遮断される「大量虐殺」を意味しています。この作品の部屋に入ると、その美しさに圧倒されるのですが、一方で一瞬にして訪れる「闇」というのに漠然とした恐怖に襲われる。作品としての強さを感じずにはいられないのです。

今回の展覧会では、広島市現代美術館のために制作された『Death of Time』(時の死)という作品が展示されています。暗い部屋の中にデジタルカウンターが赤い光の線となって部屋の壁づたいに走っています。赤いデジタルカウンターの一つ一つは無数の人々の生命を表しています。その赤いラインの中央が途切れています。カウンターはあるのに闇のように消えている。それは原爆という人為的な暴力によって引き起こされた「死」を表しています。突然に分断された命。それは自然に営まれてきた生命が一瞬にして奪い去られた「時の死」なのです。

『Death of Time』(時の死)

また、今回の展覧会でLED作品の新作が『HOTO』という、いままでのLED作品とは違った巨大な作品(高さ約5.5m、幅約2.1m)で、鏡面の本体に、7色のデジタルカウンターが約3800個設置された「光の塔」である。仏教でいわれる「宝塔」をモチーフとし「生命の奇跡」を表している。
この作品はとても不思議で、1から9とカウントするもの、逆に9から1へとカウントするもの。そして、すごく早く動いているものもあるけど、一方ではじっと見ているのになかなか動かないものもある。そしてしびれを切らして違うカウンターを見ると、視界にはあるけど、点滅したことによって数字が変化したのは分かるが、その数字の変わる瞬間が見られない。これって、他人とのすれ違いや行き違いという気がしてならない。結局ずーっとこの作品に釘付けになってしまった。
この作品が常識外れの大きさと絢爛豪華さを持った「宝塔」であることは、人間のその「命」そのものが奇跡であると表現である。それは、きらきらと輝いていて、でも時にはすれ違ったり、でも見ていると鏡に映る自分も見ることになるという非常に心惹かれる作品です。
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今回の展覧会のテーマである「Art in You」=「アートはあなたの中にある」というコンセプトを作家が表現している文章が公式カ図録の中にあるので引用する。

アートはあなたの中に棲んでいる
春。あたたかな日差しの中、薄紅色の桜の花びらが舞う。そんなさまを見て美しいを思わない人はいないでしょう。また、秋。澄み切った夕暮れの茜色の空を見て「きれいだなあ」と思わない人もいないと思います。小学校から聞こえてくる子どもたちの歌声に、心が洗われたことはないでしょうか。そうした人間の営みすべてに「美」が関わっています。それは、人間の心に美しいと感じるチャンネルがあるからです。素晴らしいと感動できる心がある証拠なのです。それがアートというものであり、意識するしないに関わらず誰にでも必ず具わっているものなのです。
(…中略…)確かに、人びとに「感動」というチャンネルがなく、美しいと思う「心」がなければ、芸術家がいくら美しいものをつくっても、誰にも分かりません。それどころか、人がいなければ、芸術家がいくら美しいものを作っても、誰にも分かりません。それどころか、人がいなければ彼らはつくる意味すら失ってしまうでしょう。歌手も感動してくれる聴衆がいるからこそ歌う。ひとりで練習することもあるけれど、それさえ、いつか誰かに聞いてもらうためのはずです。だから、アートの主役は受け手であるあなたなのです。ここで言う「美」や「感動する心」がアートの本質なのです。
Art in You。アートはあなたの中にある。そして、すべての人の中にある。それゆえアートを理解するのに特別な勉強は必要ないし、ましてや身分や学歴などは関係ありません。なぜならそれは、もともと自分が持っているものなのですから。


デジタル作品の一方でそれとは全く違った表現の作品が今回の展覧会のために制作された。
【Counter Skin】
今回の展覧会に展示された写真作品。これは、宮島氏が選んだ「場所(サイト)」―北海道の天売島、広島、奈良(この3ヶ所は過去に宮島氏が大きなエネルギーを授かった特別な場所)と宮島氏にとっては未知の場所である沖縄で行われたワークショップ・キャラバンである。このワークショップ・キャラバンでは二つの作品ワークショップが行われ、それが作品として展示されています。
そのひとつは「デス・クロック」。これは、参加者が、自分の死ぬ日を設定し、その死亡設定日時へと向かってカウントダウンする映像作品です。パソコンのモニターには、カウントダウンされる数字とその本人の顔写真が映し出されていますが、顔写真はみんなピンボケです。これは、死ぬ日時に近づくにつれて写真がどんどん薄くなっていき、死の時間になるとホワイトアウト(真っ白)するのです。自分の死の時間に向かってカウントダウンすることで、今の時間を大切に生きて欲しいという意味のある作品です。
もうひとつの「カウンター・スキン」という作品は、ふたり一組のペアとなって、お互いの身体に数字のボディペイントをし、その風景と一緒に写真に収めるという作品です。これは他者の身体に直接触れることで、他者の「命」を受け入れていくというプロセスが作品の狙いである。

身体性ということを、感じることが少なくなったというのは確かである。満員電車の中では、距離は近いが心の距離は信じられない程に離れている。そうしなければ、自分を保てないという感覚が無意識に働いているのではないか?そんな時代だからこそ、何かを感じなければ何も変わらないという気がした。

宮島達男 Art in You

宮島達男 Art in You


5月14日に八重洲ブックセンターで宮島達男と茂木健一郎トークセッションあり。公式図録を持参すればサインしてもらえるらしいです。行くよ〜。